下がった歯茎(歯肉退縮)や溶けた歯槽骨の再生治療
Treatment of Gingival Recession
歯周病治療における外科処置
「歯周病」の症状や進行の程度はそれぞれで、処置の内容もそれらの程度によって異なります。
歯茎が腫れる程度の歯肉炎や、容易に除去可能な歯石のみが付着している軽度歯周病であれば、スケーリングと呼ばれる、超音波機器などによる洗浄にて改善が期待されます。
しかしながら、中等歯周病(歯周ポケットが5~6mm以上の箇所があり、レントゲンで骨欠損が確認できるような状態)や重度歯周病(歯がグラグラとしている)の場合には、スケーリングだけでは治療は困難であり、歯周ポケットの値が一時的に改善する程度の効果しか期待できません。
そのため、長期にわたる再発を防ぐ治療としては、外科的に処置を行う必要があります。外科処置には様々な種類があり、歯や骨、咬み合わせの状態など、様々な要素を考慮して選択していきます。
例としては以下のものが挙げられます。
- 抜歯
- 歯肉を開けての歯石や炎症の除去
- 骨の再生治療
- 骨の平坦化のための骨削除
- 歯肉移植
単独あるいは組み合わせたものを選択して、最適な処置を施していきます。
精密歯周外科治療(歯ぐきの再生)
上記治療症例の費用:約40万円
当治療症例の詳細:https://seimitsushinbi.jp/case/2903/
骨外科処置(骨を削る処置)による骨の平坦化
歯周病治療の大きな目的の一つに「骨の平坦化」があります。
歯を支える歯槽骨の端と歯肉の端の間には一定以上の距離があり、その距離が短い方が望ましいとされています。難しい言葉になりますが「生物学的幅径(Biologic Width)」と呼ばれる長さを表す単語があり、歯槽骨の端から歯肉の端までの距離は、健全な状態であれば最低でも3~4mm程度になることを意味しています。
歯槽骨の端から歯肉に向かって、結合組織性付着部位・上皮性付着部位・歯肉溝の3層構造になっており、それぞれが1mm程度であることが知られています。結合組織性付着部位は健全でも歯周病に罹患していても1mm程度でほぼ不変であるため、生物学的幅径の値が大きい場合には、上皮性付着部位が長い、あるいは歯肉溝が深いことを表しています。
上皮性付着は結合組織性付着と比べて緩い結合であり、ちょっとしたきっかけで結合が失われて、歯肉溝が深くなってしまうことが知られています。歯肉溝が深くなれば(具体的には3mmを超過してしまえば)歯周ポケットと呼ばれ、歯周病と診断されます。
以上を整理すると「生物学的幅径」よりも距離が大きい場合には、歯周ポケットが存在する(歯周病である)か歯周ポケットができやすい状態にある(歯周病の直前)と言うことができます。
それでは「生物学的幅径」と「骨の平坦化」はどのような関係にあるのでしょうか。骨は硬組織であるため、歯周病によって限局的に深い溝が形成されたり、歯の周囲に沿って凸凹していたりすることがあります。一方で歯肉は軟組織であり、治癒過程においては半流動体のような挙動を示します。
そのため、歯肉の裏打ちである骨に段差や溝、凸凹があってもその形態を追従するような形で治癒することはなく、なだらかな形状となります。つまりは、歯槽骨の端から歯肉の端までの距離が長いところもあれば短いところもあることになります。
先述の通り、歯槽骨の端から1mm程度は結合組織性付着ですから、距離の長いところでは上皮性付着が長くなるか歯肉溝が深いか、あるいは歯周ポケットが残存することになってしまいます。
このようなことが起きず「生物学的幅径」を確立させるため、骨外科処置(骨を削る処置)を行うことで骨の端を平坦化させる必要があります。
再生治療の目的
前項では、生物学的幅径を確立させるために骨を削る必要があると説明しました。
それでは、ある歯の周りの骨の状況を考えてみましょう。全体的に見ると骨は十分にありますが、隣の歯と接触部位付近の骨が著しく失われており、骨の段差が生じていたとします。歯茎を開いて炎症を取り除いたとしても、治癒過程で生物学的幅径を確立することが困難であることが予想されます。このような場合に、骨を平坦化させるために大幅に骨を削ったとしたら、どうなるでしょうか。
確かに生物学的幅径を確立することができるはずです。しかし、一部の骨欠損のために、その他の周囲の骨を大幅に削ることになるわけですから、歯を支えることができなくなり、歯がぐらぐらと揺れてきてしまいます。これでは元も子もありません。
そこで骨削除量を極力減らすことを考えなければなりません。骨を削る目的は平坦化ですから、削って高さを合わせる以外に、増やして高さを合わせるという方法も考えられます。この高さを増やす方法こそが再生治療です。骨外科処置を行う前に骨が失われている部分の骨を増やすことで、骨の削除量を減らすことができます。この方法により、抜歯しか選択肢がないと思われていた歯も、条件次第では保存することも可能となります。
再生治療の適応
骨の欠損の程度や形状によっては再生治療自体が適応とならない場合があります。
再生治療の適応は、歯周病の程度を骨が溶けてしまった量で軽度、中等度、重度に分類すると、骨が歯根の半分程度まで溶けてしまっている中等度の歯周病までと考えられ、歯根の先まで骨がなくなっている重度歯周病は非適応となります。
また後述の骨欠損部の形状並びに分岐部の状態によっては、非適応となってしまう場合があります。
骨壁と予知性
歯槽骨の再生量を予測する上で重要になってくるのが、骨壁という概念です。
骨壁とは、骨が無くなってしまったところの周りの骨の形状のことを指します。骨が無くなった空間の周りに、どれだけ骨があるかを表す概念で1壁性から4壁性まであります。
これは欠損部の周りを4壁に分け、そのうちいくつが存在するかと考えていただけるとわかりやすいと思います。4壁性の欠損が周りに残っている骨の量が最も多く、1壁性が最も少ないことになります。
この場合、周りに骨がたくさん存在する4壁性の欠損が最も再生治療の予後が良くなります。1壁性となると、再生治療による骨の再生は厳しく非適応となります。基本的に2壁、3壁以上が再生治療の条件となります。
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浮遊歯
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垂直性骨欠損
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根分岐部病変
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水平性骨欠損
根分岐部と予知性
奥歯の歯根は上で3本、下で2本あります。そのため奥歯の歯周組織が破壊され歯根が露出してくると、歯根と歯根の間の股の部分が外に見えてきてしまうことがあります。
この歯根と歯根の間の部分を根分岐部と呼ぶのですが、この根分岐部は非常に掃除がしにくい部分であり、根分岐部がどれだけ外につながってしまっているかということも、再生療法の予後を左右します。
根分岐部の状態を表す基準として「Lindhe&Nyman」の分類があります。「Lindhe&Nyman」には1度から3度まであり、分岐部が悪くなるにつれて数字が大きくなります。外から特殊な器具が根分岐部を貫通してしまう場合をグリックマンの分類3度、外から2/3まで挿入できる場合を2度、1/3まで挿入できる場合を1度と呼びます。
「Lindhe&Nyman」の分類では2度以上になると再生は厳しくなり、貫通してしまう3度は非適応となります。当医院では、これらの状態を適切に診断し、予知性の高い治療を行っています。
再生治療の材料
再生療法に用いる材料について説明いたします。
治療法 | 材料 |
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組織誘導再生療法(GTR法) | メンブレン |
エナメルマトリックス たんぱく質による誘導法 |
エムドゲイン |
骨移植法 | 自家骨(患者自身の他部位の骨) 他家骨(FDBAD、FDBA) 異種他家骨(Bio-Oss) 人工骨(ハイドロキシアパタイト、三リン酸カルシウム、ガラスセラミックス) |
以下では、当医院で用いる材料について、その効果と安全性について詳しく述べていきます。
エムドゲイン
エムドゲインとは、歯根面に塗布することにより歯周組織を誘導することのできる、ブタの歯胚組織を主成分としたゲル状のたんぱく質です。
現在、ヒトの歯根の形成期にエナメルマトリックスたんぱく質が分泌され、無細胞セメント質を形成することが証明されています。そして、この無細胞セメント質に引き続き、歯槽骨及び歯根膜が形成されることも明らかになっています。すなわち、エムドゲインは、歯周病によって失われてしまった無細胞セメント質、歯槽骨、歯根膜などの歯周組織の再生に役立つと考えられています。
ここで覚えておいていただきたいことの一つに、有細胞セメント質と無細胞セメント質の違いがあります。
セメント質は、セメント芽細胞を含む有細胞セメント質と、セメント芽細胞を含まない無細胞セメント質に大きく分類することができます。
無細胞セメント質の方が骨や骨膜と連結する線維に富んでいるという特徴があります。言い換えれば、無細胞セメント質の方が歯の支持固定に重要な役割を持っているのです。上表で紹介しているGTR法は、単独で行うと有細胞セメント質を誘導するものですが、これに対しエムドゲインは無細胞セメント質を誘導することができます。
このことからも、歯周病で歯の揺れが大きくなってしまっている方々への再生治療には、エムドゲインが有利であることがおわかりいただけるでしょう。
ブタの歯胚組織を主成分とした、ゲル状のたんぱく質と説明いたしましたが、ブタ、と聞くと安全性に不安を覚えてしまう方もいるかもしれません。
しかしながら、各種毒性試験、動態試験、ウイルス試験、免疫学的試験に合格しており、厚生労働省の認可を得ていて、同一患者に対する複数回の使用においても現在までのところアレルギーの報告はされていません。また、原料となるブタは欧州及び米国の食肉用安全性評価基準を満たしているもので、十分な検疫がなされています。
他家骨(FDBA)
「FDBA(Freeze Dried Bone Allograft)」とは非脱灰冷凍乾燥他家骨のことで「DFDBA」と比べると吸収置換にやや時間がかかりますが、硬いタイプの皮質骨を多く形成するという特徴があります。そのため、インプラント治療に応用される傾向があります。
「FDBA」及び「DFDBA」は、FDA(米国食品医薬品局)の承認を得ていますが、厚生労働省の認可は下りていません。
しかし現在まで、40年以上にわたり世界の歯科界で使用されており、再生治療に対する有用性の高い材料です。顕微鏡を利用した徹底的な汚染源の除去の元、これら先進医療の材料を用いることにより、効果の高い再生治療を提供したいと当医院は考えています。
他家骨(DFDBA)
「DFDBA(Demineralized Freeze Dried Bone Allograft)」とは、脱灰冷凍乾燥他家骨のことで、ヒト由来の骨誘導能を持った生体材料です。
「DFDBA」の置かれた部位が血液で満たされることにより、骨に置換されていきます。安全性については、スクリーニングされたドナーの骨を無菌的に採取し、エタノール処理や凍結処理を行っているため、抗原性は極めて低いと考えられています。
年間500,000ケースの使用があり、25年以上感染の報告は1例もない、という報告もあります。(Melloning, 1995)
歯周病治療における再生治療
再生治療は、歯周病を治療する際に行う処置の一つであり、再生治療という処置単独で完結するものではありません。原則として、歯周病の治療の流れの中で、然るべきタイミングに再生治療を実施いたします。
再生治療で大切なこと
再生治療を行う上で最も大切なことは、骨の再生に適した環境を整えることです。再生治療の材料を応用する前に、骨が失われた原因を除去しておくことが大切です。具体的には歯石、炎症性組織、望ましくない咬み合わせなどを排除しておくことが必要不可欠です。
初期治療によりプラークや歯石がある程度除去されると炎症も消退していきます。しかしながら、再生治療を行うような骨欠損部位はポケットが非常に深いため、初期治療のみで完全に炎症を排除することはできません。
そのため、歯肉を切り、歯根や骨を明示した状態で取り残しの歯石や炎症性組織を徹底的に除去することになります。歯肉を開いた状態での炎症性組織除去は非常に長い時間を要するため、患者様も歯科医師も非常に疲弊するところです。
徹底的に炎症が除去されたのちに表面処理を行い、先述のエムドゲインや骨補填材を使用して、骨の再生を促します。最後に縫合して終了です。
術後1~2ヶ月は、不用意に力を加えることを避ける必要があるため、力強く歯を磨くことや歯間ブラシを控えていただきます。
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深いポケット
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炎症を除去
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エムドゲイン塗布
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DFDBA充填
再生治療から骨外科処置まで
歯肉は体の中でも治癒が速いことが知られています。
一方で、骨の治癒はさほど速くなく、特に再生となると非常に長い期間を要します。術前や術後の治療計画により差はありますが、半年から1年以上(当院では10ヶ月前後が多い)は、骨の再生を待ち、その後骨外科処置を行います。なお、条件によっては骨外科処置を行わないこともあります。
骨外科処置後は、術式にもよりますが、2ヶ月から半年くらい経過した後に被せ物の処置に移行していきます。
非外科処置(クリーニング・ブラッシング)の限界
外科処置を行わずに歯周病を治すことができるのであれば、それに越したことはありません。スケーリングルートプレーニング(歯のお掃除、歯石除去)と正しい歯ブラシの仕方で、軽度の歯周病であれば治すことも可能です。
スケーリング・ルートプレーニング(SRP)とは?
歯石の除去のことを指します。歯周ポケットの深さはこのような治療を行って、すぐに健康な状態に戻るわけではありません。
歯肉の腫れがなくなり、ひきしまってくるまで1~2週間程度、時間が必要です。初期治療を行ってもポケットが改善しない場合があります。炎症により骨が溶けてなくなっているため、通常平坦であるはずの骨が凸凹になり、歯磨きを困難にしたり、深いポケットの原因となったりすることがあります。
クリーニングやブラッシングの限界
歯の根の又(分岐部)についた歯石はとりづらく、器具が届かないこともあります。角化歯肉と言われる強い歯肉が極端に少ないために、歯周ポケットができやすくなっていることもあります。
限界の状況
- 小帯(口の中のスジ)が歯肉を引っ張っているため、ポケットが開き治りにくいケース
- 歯並びがよくないためにプラークや歯石が溜まりやすくなり、炎症がなかなかとれないというケース
- 歯肉の中に虫歯がある場合や被せ物が合わず、そこに汚れが溜まっているケース
このような場合、歯のクリーニングやセルフケアでは歯周病を治癒させることが困難です。自分で歯周病をコントロールできるようにするためには、外科処置が必要になります。非外科処置の限界と言えるでしょう。
関連コンテンツ
歯周病治療の注意事項(リスク・副作用など)
- 外科手術のため、術後に痛みや腫れ、違和感を伴います
- 歯周組織再生治療は患者様の状態によって術後の経過が異なります(見た目が改善しない場合もあります)
- 歯周組織再生治療は自費診療(保険適用外)となります