歯周病治療の進め方②(歯周外科手術)
Periodontal Surgery
歯周病治療の流れ
⑤ 歯周外科手術(歯肉縁下カリエスの治療)
歯周外科手術には様々な種類がありますが、まず、深い歯周ポケットに対する代表的な二つの術式を紹介いたします。
MWF(Modified Widman Flap:ウィッドマン改良フラップ手術)
初期治療(Scaling,RootPlaning)でとりきれなかった歯石や、歯周ポケット内の汚染されたセメント質、象牙質表層を除去することを目的とした手術です。
歯肉を切開、全層弁で剥離し、歯根面、骨面を露出することにより、目視下で歯石や汚染物質を確認できるため、初期治療と比較して確実な清掃を行うことができます。
MWFは、1916年にWidmanにより考案された手術法(Widman Flap)を1974年にRamfjordが改良して発表した術式です。この術式は術後の根面露出を可能な限り防ぐことができ、審美的な結果を得ることができるため、上顎前歯部などの審美領域に有効です。
MWFは、可能な限り組織を温存する方法のため、基本的に補綴物による修復処置が必要でない天然歯に用いることが多いです。手術による根面露出や歯間乳頭の喪失などの審美障害、知覚過敏を起こしたくない天然歯に有利な術式です。
一般的に天然歯は修復歯に比べて清掃性が高いため、深い歯肉溝と長い上皮性付着の治癒であってもコントロール可能であり、また仮に経年的に少しずつ歯肉退縮が進んだとしても、補綴物のマージン露出などの審美障害が生じないといった理由から、MWFが適応になることが多いです。
MWFは組織付着療法であり、組織を可能な限り残しながら歯周ポケットを減少させる方法です。組織付着療法はポケット減少療法とも言われ、MWFの他に「Open Flap Curettage、ENAP(Excisional New Attachment Procedure:新付着手術)」などがあります。
- メリット
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- 組織を保存でき、審美的に有利である(APFと比較して、歯肉退縮が顕著ではない)
- 根面の処理が容易である
- 骨の再生が期待できる
- 長い上皮性付着による治癒が起こる
- アタッチメント・ゲイン(一度喪失した結合組織性付着が回復すること)が期待できる
- デメリット
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- 歯周ポケットの減少が不確かである
- 術後にクレーター(歯間乳頭の陥没)が生じやすい
- 長期的に歯肉退縮を生じやすい
- 歯間部で乳頭を一時的創傷治癒となるように縫合するのは技術的に難しい
- 適応症
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- 中等度~重度の歯周炎(歯周ポケット約5~8mm)
- 適切な量の角化歯肉がある場合
- 骨欠損部の再付着を期待する場合
- 審美性を考慮する部位(上顎前歯部など)
- 禁忌症(非適応症)
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- 補綴物マージンを歯肉縁下に設定する場合
- 角化歯肉が3mm以内の場合
術式、治癒形態
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- 浸潤麻酔、ボーンサウンディング、切開(ライニング)
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浸潤麻酔、ボーンサウンディング(プローブで骨頂の位置を確認)後、可及的に歯肉組織を温存しながら、内縁上皮を除去するために歯肉頂から0.5mm離して歯肉辺縁切開を行う(一次切開)。歯間乳頭部を極力保存するためにスキャロップを強調する。
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- 切開(ディープニング)、歯肉弁の剥離
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骨頂に刃先が当たるまでしっかり切開を加えたのち、骨膜剥離子を用いて全層弁で剥離し、骨面を露出させる。原則として、歯肉歯槽粘膜境(muco-gingival junction)を越えない。
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- 歯牙周囲の肉芽組織・残存歯石・汚染物質の除去
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二次切開(歯肉溝切開)、三次切開(水平切開)を加え、歯牙周囲の肉芽組織を切離、除去し、硬組織(歯牙、骨)のみを露出させ、歯石の沈着や骨の形態異常を確認する。ハンドスケーラーや超音波スケーラーを用いて残存歯石、汚染されたセメント質や象牙質表層を除去する。
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- 縫合(頬側、口蓋側ともに単純縫合)
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歯肉弁を可及的に元の位置に戻して縫合する。歯肉弁が歯根面に重なるため、根面の露出や歯間乳頭部の喪失は最小限に抑えられる。
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- 手術直後~1ヶ月後
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上皮が創傷部保護の目的で歯根面に沿って、歯冠側、根尖側両方向へ伸展、深行する。
※術後の治癒には個人差があります。
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- 1~2ヶ月後
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深い歯肉溝、長い上皮性付着の治癒形態が得られる。組織が最大限保存され、審美的であるが、場合によっては歯周ポケットの再発、辺縁歯肉の位置の不安定(歯肉退縮の危険性)などの不安が残る。
※術後の治癒には個人差があります。
APF(Apically Positioned Flap:歯肉弁根尖側移動術)
角化歯肉を含めた歯肉弁を根尖側に移動させることにより、深い歯周ポケットの除去と同時に、付着歯肉(歯牙や骨に付着している角化歯肉)を維持、あるいは増加させることを目的とした手術です。歯肉縁下深くに虫歯がある場合も、APFにより歯の保存が可能になることがあります。
APFは、基本的に歯肉縁下に補綴物のマージン設定を予定している修復予定歯で用いることが多いです。修復予定歯は、天然歯には存在しないマージンラインというギャップやセメント層があるため、歯周ポケットを除去して浅い歯肉溝を獲得し、極力清掃性を高めておく必要があります。また、経年的に歯肉が退縮して、補綴物のマージンが露出するリスクを抑えるため、生物学的幅径(Biologic width)を確立し、安定した歯周組織を構築できるAPFは、修復予定歯に対する確定的外科処置の第一選択となります。
APFは切除療法であり、歯周ポケットを構成している組織を切除、切断することにより、歯周ポケットを除去、あるいは減少させる方法です。ポケット除去療法とも言います。
- メリット
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- 歯周ポケットの除去ができる
- 生物学的幅径(Bioligic Width)を得ることができる
- 治癒後の辺縁歯肉の位置が安定する
- 付着歯肉を維持または増大できる
- デメリット
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- 歯周ポケット除去の結果、根面の露出が大きくなり、知覚過敏、審美的障害、発音障害などの問題が起こる可能性がある
- MWFに比べ、手術によるアタッチメント・ロス(歯に付着する上皮組織および結合組織の喪失)がわずかに大きい
- 技術的にやや難しい
- 適応症
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- 中等度の歯周炎(歯周ポケットが約5~6mm)
- 適切な量の角化歯肉がある場合
- 術後に予想される審美的変化(歯肉退縮)を許容できる場合
- 歯肉縁下に虫歯がある場合
- 歯冠長を延長したい場合
- 清掃性の高い歯周組織を得たい場合
- 禁忌症(非適応症)
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- 手術による審美的障害が大きいと予想される場合
- 適切な角化歯肉がない場合
- 臨床的な歯冠と歯根の長さの比率が極端に悪い場合
- 垂直的骨欠損が深すぎる場合
- 解剖学的制限がある場合(APFを行うと分岐部が露出してしまう場合など)
術式、治癒形態
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- 浸潤麻酔、ボーンサウンディング、切開(ライニング)
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浸潤麻酔、ボーンサウンディング(プローブで骨頂の位置を確認)後、角化歯肉の幅を考慮しながら歯肉頂から0.5~1.0mm離して歯肉辺縁切開を行う(唇側)。スキャロップはゆるめにして歯間乳頭部は除去する。
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- 切開(ディープニング)、歯肉弁の剥離
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歯肉弁の厚み(約1mm)に注意しながらメスの角度を歯軸と平行を目安としてコントロールし、結合組織内を切開する。歯肉歯槽粘膜境(MGJ)まで切開を進めた後、縦切開を加え、縦切開より粘膜部にメスを入れ、根尖側から歯冠側へ向かって切り上げ、切開を連続させる。
歯肉歯槽粘膜境(MGJ)を3~5mm越える程度まで部分層弁で剥離し、骨面上に一層骨膜を残す。口蓋側では、ボーンサウンディング値-1mmを目安に歯肉頂から離して切開線を設定する(歯槽骨頂予測切開)。口蓋側はすべて角化歯肉であるため、内斜切開による歯肉切除により歯周ポケットを除去する。
頬側同様、歯軸を目安にメスの角度をコントロールして歯肉弁の厚みを1mm程度に調整する。
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- 歯牙周囲の肉芽組織・残存歯石・汚染物質の除去
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二次切開(歯肉溝切開)、三次切開(水平切開)を加え、歯牙周囲の肉芽組織を切離、除去し、硬組織(歯牙、骨)のみを露出させ、歯石の沈着や骨の形態異常を確認する。ハンドスケーラーや超音波スケーラーを用いて残存歯石、汚染されたセメント質や象牙質表層を除去する。
骨の形態異常がある場合、外科用バーを用いて骨外科処置を行い、生理的骨形態を付与して歯周ポケットの除去を図る。
※骨外科処置について、詳しくは後述いたします。
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- 縫合(頬側:骨膜縫合、口蓋側:垂直マットレス縫合)、歯周パック
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膜縫合により歯肉弁の断端を骨頂に位置づけ、根面を大きく露出させる。この歯肉弁の根尖側移動により、歯周ポケットの除去を図る。水平マットレス縫合を追加し、歯肉弁を骨面に緊密に適合させる。縫合後、歯周パックで創面を覆う。
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- 手術直後~4ヶ月後
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歯肉は歯冠側方向に向かって治癒する
※術後の治癒には個人差があります。
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- 4~6ヶ月後
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生物学的幅径(Biologic width)の原則に従って治癒する。歯周ポケットの除去、安定した歯周組織の獲得が達成できる。また、深い歯周ポケットにより増加していた遊離歯肉を根尖側に移動して骨面に適合させることにより、付着歯肉の増大を図ることができる。
※術後の治癒には個人差があります。
歯周病により歯槽骨が部分的に吸収すると、骨の形が凸凹になります。その状態ではプラークが停滞しやすく、歯周病がさらに進みやすくなってしまいます。このような骨の形態異常に対する対処法には次のページでご説明します。
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歯周病治療の注意事項(リスク・副作用など)
- 外科手術のため、術後に痛みや腫れ、違和感を伴います
- 歯周組織再生治療は患者様の状態によって術後の経過が異なります(見た目が改善しない場合もあります)
- 歯周組織再生治療は自費診療(保険適用外)となります