歯周病治療の進め方①(診査・診断~再評価と治療計画の修正)
Diagnosis of Periodontal Disease
歯周病はプラーク中の細菌に起因する炎症性疾患
一般に、局所に生じた炎症性病を治療するための基本は、局所に刺激を与えて炎症を惹起させる刺激物(原因)を除去し、組織の修復過程を促し、また、宿主の抵抗力を高めることにあります。これにより、破壊され、失われた組織や器官などの修復や再生を獲得します。
ほとんどの歯周病は、プラーク中の細菌により引き起こされる炎症性疾患ですので、発炎性因子であるプラーク中の細菌と修飾因子の除去を行い、さらに安定した咬合機能の回復を図り、それらの状態を長期的に維持することを目標としています。
歯周病の治療には、初診からメインテナンスへの一連の流れがあります。その流れの中の時々で、治療の効果を評価し、治療内容の修正や追加を行って、患者様を健康な状態に導いていくことが重要です。
歯周病治療の流れ
① 診査・診断
患者様によって口腔内の状態は様々です。そこで、最初に診査と診断をします。
口腔内・外
顔貌、上下の顎の関係、上下の歯列の関係、個々の歯及び周囲組織の状態を診査します。
レントゲン写真
歯石の沈着、骨吸収の状態、修復物の適合状態、根の近接、コンタクトポイントの状態、歯冠・歯根比、歯根膜腔の幅、歯槽硬線(白線)の状態、根分岐部病変、歯の挺出・傾斜・捻転、虫歯、根尖病変、埋伏歯、オトガイ孔及び下歯槽管の位置、上顎洞の位置、形態、歯根の長さと太さなどを、レントゲン写真から読み取ることができます。
歯周組織検査
歯周ポケットの深さ、歯肉の退縮量、歯の動揺度、根分岐部病変、角化歯肉の幅、プロービング時の出血、小帯の付着位置、口腔前庭の深さなどを記録します。
模型診査
歯のすりへりの有無、早期接触の有無、辺縁隆線の不一致、歯の位置異常、欠損部と対咬あるいは隣接歯との関係、小帯等の付着位置、修復物の適合状態を、模型から知ることができます。
口腔内写真
数値で評価できないような、歯肉の形態や色、歯根露出の状態などの記録となります。また、患者さんに自分の口の中がどうなっているのかを視覚的にわかってもらえる手段ともなります。
細菌検査
口腔内の状況によっては、細菌の活動状況を調べます。
全身の状態
全身疾患、既往歴、全身疾患のコントロールなどを、問診します。
② 治療計画の立案
診査の結果をもとに、治療計画を立てます。その症例に必要な治療内容と治療順序を決めていきます。治療計画は始めに述べた歯周治療の考え方に基づきます。
歯周病の進行状態と、その原因を1歯単位で診査・診断し、それをもとに一口腔単位での機能と審美性を考慮した治療計画を立てます。その際、患者様の主訴や希望を考慮することも重要です。また、患者様の年齢や全身状態を含むリスクファクターを把握し、それらの除去あるいは改善も考えます。
治療計画は、初期治療と再評価後の治療で分けられます。治療に対する治癒の個人差などを考慮すると、治療計画の内容は後に変更される可能性がありますので、柔軟な計画となるように配慮します。また、患者様の治療への協力度に応じて処置内容を変更する可能性もあります。
③ 初期治療
モチベーション
歯周治療には患者様の協力が必要です。週に1回、歯科医院でプラークを除去したとしても、その他の日は歯磨きをしなかったり、あるいは不適切であったりでは治療の効果が得られません。そのため、患者さんに口腔内への関心を持ち、積極的に治療に取り組む姿勢を持ってもらいます。
また、患者様と歯科医師、スタッフ間に良好な信頼関係が築けると、モチベーションも向上し、治療成果も高まります。また、プラークコントロールの改善につながり、再発の危険性が減ります。
TBI(歯みがきの練習)
歯周病の初発原因は、プラーク中の細菌です。まずは原因除去が重要ですから、プラークとその中の細菌を減らすために、歯磨きの練習を行います。
急性炎症が強い場合は、うがいや柔らかい歯ブラシによる清掃、投薬などで炎症を軽減させる場合もあります。まずは柔らかい歯ブラシで少しずつプラークを取ってもらいます。
炎症の状態によって歯ブラシの硬さやブラッシング方法が変わります。プラークの付着をわかりやすくするためにプラークの染め出しを行います。染色部位を確認してもらい、染色部位を丁寧に(1歯ずつ)磨く練習をしてもらいます。
また、それを自宅での歯磨きにも活かしてもらいます。また、通常の歯ブラシだけでプラークが落としにくい場合、歯間ブラシやフロスの使用についても指導を行います。
歯磨きをすることにより、プラークが減少し歯肉の炎症が減少します。ぶよぶよして出血しやすい歯肉も正しく歯磨きをすることにより、かなり引き締まってきます。そうすると歯肉中の歯石が見えやすくなり、歯石除去が効果的に行えるようになります。
歯肉縁上歯石の除去
プラークは歯に付着して時間が経つと、唾液中のカルシウムが石灰化して歯石となり、歯ブラシでは取れなくなります。歯石には歯周ポケットの上部にある歯肉縁上歯石と、歯周ポケットの中にある歯肉縁下歯石があります。まずは歯肉縁上歯石をとります。
取り方は、超音波スケーラーという器具を使い、水をかけながら超音波で歯石を壊して取るというものになります。歯肉縁上歯石を取ると歯石の表面や内部の細菌が減り、さらに歯肉も引き締まってきます。
スケーリング・ルートプレーニング(SRP)
歯周ポケット内部の歯肉縁下歯石を除去するのがSRPです。スケーリングとは、歯及び歯根面からプラーク、歯石、着色を除去する器具操作のことです。ルートプレーニングとは、粗造で歯石の入り込んだ、あるいは毒素や細菌で汚染されたセメント質や象牙質表層を除去することです。
歯石は、根面の内部にまで入り込んで付着しているため、感染している根表面を除去するためにルートプレーニングが必要となります。
SRPは手用スケーラー(キュレット)という鋭利な刃のついた器具を使います。歯肉縁下歯石の方が、より強固に付着しているため、より徹底した器具操作が必要となります。
歯周ポケットの深いところに器具を入れるため、麻酔をして行います。歯周ポケット内の歯石の有無、除去できたかどうかは、手指かに伝わる触覚から判断します。
もしも、根面の粗造感や凹凸が認められる場合には、歯石の取り残しを疑って、スケーラーを使って再びSRPを行います。SRP後は麻酔によるしびれ感が消えるまで食事は控えてください。また、当日は治療部位のブラッシングは控えてください。歯肉の状態が変化することで歯がしみる場合があります。鈍い痛みが2~3日続くこともあります。
不良補綴・修復物の処置
装着している補綴物(被せ物)や詰め物(修復物)が不良な場合は、歯周病の症状を悪化させてしまうことがあります。通常見られる不良補綴・修復物には適合の不良、咬み合わせの不良、隣の歯との接触不良などがあります。
不適合な場合には、歯肉を損傷したり、プラークがたまりやすくなったりするため、炎症を悪化させます。再調整は難しい場合が多いため、再製作する必要があります。
咬み合わせが不良な場合には、咬合性外傷の原因となります。その場合、咬合調整を行うか、調整が難しい場合には再製作が必要となります。隣の歯との接触が不良な場合は食片がはさまりやすくなり、炎症が悪化します。その場合、再製作が必要となります。
咬合調整
咬み合わせにおいて、一部の歯だけ強く当たっていたり、歯をいろいろな方向に滑らせた際に引っかかったり、無理な力がかかったりする場合には、歯周病を悪化させる機会的な刺激となります。
基本的には、歯磨き練習や歯石の除去が終了して炎症をある程度消退させた後に、咬合調整は行いますが、応急処置として初期に行う場合もあります。
処置内容としては歯を削るので、不可逆的な処置であることや、処置後の知覚過敏の可能性などを理解していただいた上で行います。
抜歯
プラークコントロールをする上で妨げになる歯や、明らかに保存不可能な歯、歯周治療が無意味な歯は初期治療の段階で抜歯が必要になります。
抜歯の適応となる歯は、虫歯の進行が甚だしくどんな処置を行っても歯としての機能を回復できない歯、根の先の病気が重度で根管治療でも回復が見込めない歯、歯周病が重度で歯を支える骨の吸収が激しい歯、根が折れている歯などになります。
抜歯をするか保存するか判断に迷う歯については、この時期に抜歯をせず、初期治療後の再評価を行ってから、あるいは外科処置を行ってから確定的に判断します。
暫間固定
歯周病により歯を支える骨が吸収されると、歯はぐらつくようになります。
こうした歯のぐらつきを防ぐために固定を一定期間行い、各歯に噛む力を分散させて安静を図ることを暫間固定と言います。接着剤やワイヤーを用いて歯と歯をつないだり、仮歯で歯と歯を連結したりします。
④ 再評価と治療計画の修正
診査に基づき治療計画は立案されますが、各治療のステップ後には再評価を行います。評価の内容は、歯周ポケットの深さ、歯肉からの出血、動揺、歯肉の炎症の状態、プラークの付着状態、除去できていない歯石の有無、歯槽骨の状態などです。
治療に対する歯周組織の反応は患者様によって様々ですが、再評価によって個々の患者様の歯周組織の反応を確認することができます。したがって、治療のステップが的確に行われたかどうか、また次に予定されている治療ステップが適切なものであるかを再考します。
また、再評価は患者様によって行われるプラークコントロールの水準のチェックでもあります。歯周治療は患者様の協力が不可欠ですので、再評価の時点でも歯周病に対して理解されているか、モチベーションが維持できているかを知ることは、歯周治療を成功に導く要因となります。
再評価の結果を受けて、治療計画の見直しを行いますが、主に3つのパターンに分かれます
- 初期治療による歯周組織の改善が著しく、それ以降の積極的な歯周治療の必要性のないケースの場合は、メインテナンスに移行します。
- 適切なプラークコントロールの水準が達成され、歯石も徹底して除去したにも関わらず、歯肉に炎症や深いポケットが残存しているケースでは、歯周外科処置の適応となります。
- 歯周治療に対する協力度が低いか、モチベーションが不足しているケースでは治療の次のステップに進むことはできません。
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歯周病治療の注意事項(リスク・副作用など)
- 外科手術のため、術後に痛みや腫れ、違和感を伴います
- 歯周組織再生治療は患者様の状態によって術後の経過が異なります(見た目が改善しない場合もあります)
- 歯周組織再生治療は自費診療(保険適用外)となります