インプラント治療のリスク
Risks of Implant Treatment
インプラント治療のリスク
インプラント治療は、現在も進歩が著しい歯科治療最先端の分野です。すでにインプラントという言葉は広く一般に普及しており、インプラント治療を希望される患者様も増えています。
ところが、多くの患者様は、インプラント治療の概要すらご存じではありません。インプラント治療を受けて失敗した、あるいは期待していたほどの効果はなかった、ということにならないためにも、治療を受ける前にメリットやデメリット、治療を受けるリスクをしっかり理解しておくことが大切です。
すでに世界的に普及しており、非常に成功率が高い治療法と言えますが、今回はインプラント治療を行う際のリスクについてご紹介させていただきます。
① インプラント治療前の問題
全身疾患によるリスク
糖尿病
持病に糖尿病がある場合は、インプラント治療ができないことがありますが、病状をしっかりと管理されていれば可能な場合もあります。
糖尿病では、手術後の治りに時間がかかったり、インプラントと骨がしっかり結合しなかったり、といったリスクが考えられます。さらに糖尿病が進行していると、身体の抵抗力や免疫力が低下。その影響でインプラント周囲の炎症・骨吸収を起こしてインプラントの脱落につながるケースもあります。
高血圧
高血圧によって血管が脆くなっている場合、インプラント手術後の治癒不全を招く恐れがあります。また、手術中に突発性の異常高血圧が生じた際は、手術が困難になることがあります。手術中のリスクに関しては、静脈内鎮静法を用いることで、異常な高血圧を未然に予防することができます。
心臓疾患・不整脈等
手術中のストレスにより発作が誘発され、危険な状態に陥る恐れがあります。運動制限が特にない場合は問題にならないことが多いです。手術中の発作は静脈内鎮静法を用いることで発作や不整脈を未然に予防することができます。
骨粗鬆症
骨粗鬆症は、骨がもろくなり骨折しやすくなってしまう病気です。インプラントは骨と結合することで、噛むことができるようになります。骨粗鬆症によって、骨の強度が低下すると、結合が難しくなるため、長期にインプラント使用ができなくなる恐れがあります。
インプラント治療により生命の危険がある場合
一般的な外科処置が行えないような全身状態、または血友病やHIV、肝硬変を患っている方は、インプラント治療を行うことができません。また疾患治療ため、抗凝固薬などを長期間服用していている場合も、手術時の止血が難しいためインプラント治療ができません。
その他のリスク
喫煙
喫煙は、全身はもとより口の中に大きな悪影響を及ぼします。とりわけインプラント治療においては、インプラントと骨の結合を妨げることが明らかになっています。歯周病やインプラント治療を成功させるために禁煙することをお勧めします。特に手術1週間前の禁煙が、リスクを大きく低減させると報告されています。
貧血
女性に多く見られる貧血ですが、一般的な鉄分不足であれば大きな問題となることは少ないでしょう。しかし、程度によっては手術後に十分な酸素が供給されず、治癒不全となるリスクがあります。
精神的疾患
統合失調症・うつ病・神経症・ストレス関連障害・アルコール依存・認知症などの問題がある場合は、きちんと治療内容について理解ができる、治療後に自身で口腔内清掃ができることが、インプラント治療の適応基準となります。
口腔内の問題
安全にインプラントを埋入するため、治療箇所に十分な骨の高さと幅があるかどうか確認します。適切な位置にインプラントを埋入しないと、手入れがしづらかったり、無理が生じて人工歯が割れたり、インプラントの長期的な安定が期待できません。インプラントが埋入できても、きちんと口腔内を清掃できていないと、歯周病の感染リスクが高まり、早期にインプラントが脱落することがあります。歯周病が進行すると骨が溶けてインプラントが脱落してしまうリスクが高まります。
インプラント上の被せ物は、最低5mmのスペースが確保できないと入れることができません。また、インプラント埋入予定部位の臨在する歯とのスペースが7mm未満の場合、臨在する歯の骨にまで悪影響が出てしまうため、インプラント治療ができないことがあります。歯が欠損したまま放置すると、咬み合う歯が伸びて歯列を乱す原因となります。そうなると、さらに歯を失うリスクが高くなるばかりか、その後のインプラント治療にも悪影響を及ぼすので、早急に歯の機能を補う治療を受けておきましょう。
② インプラント手術時のリスク
神経の損傷
インプラント手術前に神経までの距離をCT画像で測定したにもかかわらず、神経を損傷したり、神経の側枝を損傷したりすることがあります。特に骨の厚みや高さが十分ではない場合に、このような問題が発生しやすくなります。もし神経に障害が起きても、下顎の神経は知覚神経なので顔の表情が変わったり、運動障害を引き起こしたりすることはありません。ただし、神経の回復は、数日から数週間程度要する場合もあります。治療としては一般的にビタミン剤を投与します。
一番の予防策としては、CTでしっかりと手術前に骨の厚みを確認すること。どうしても骨の厚みを十分に確保できない場合は、骨を造る(骨造成)、またはインプラント治療を行わないという選択肢も考えられます。
インプラントの上顎洞への落ち込み
上顎と眼の下、鼻の横には上顎洞と呼ばれる大きな空洞があります。上顎の骨は、下顎に比べて軟かいため慎重にインプラントを埋入しないと、この空洞にインプラントが落ち込んでしまうことがあります。上顎洞までの骨の厚みが十分ではない場合は、上顎洞内に骨を造ってから(サイナスリフト)安全にインプラントを埋入する必要があります。
インプラント埋入時のドリルによる血管損傷
インプラントを埋入する際に使用するドリルの使用方向を間違えると、血管を損傷して出血する可能性があります。大量出血した場合は、内出血によって手術翌日から3週間ほど顔の表面が青紫色に変色しますが、時間と共に吸収され完全に消失します。
このようなことを起こさないためにも、手術前にはCTでしっかりと骨の厚み・高さを確認し、手術中も骨の形態を確認しながら、安全にインプラント手術を進めていきます。
③ 手術後の腫れや痛み
手術の範囲や内容、個人差もありますが、手術後は必ず腫れや痛みが生じます。痛み止めを処方しますが、服用されない方も少なくありません。稀に激しい痛みが生じる方がいらっしゃいますが、時間経過と共に治まっていきます。通常、痛み止めを服用いただければ、日常生活や仕事に支障をきたすことはありません。
術後、約3週間は安静にしてください。骨結合には約3~6ヶ月要します。(結合が早いタイプのインプラントは約1~2ヶ月)骨の質が硬すぎたり、インプラントと骨の結合を阻害したりするような力が加わると、稀にインプラントが脱落してしまうことがあります。
④ インプラント治療後のリスク
インプラントの本数が支える範囲に比べて少なく、負担過多になりインプラントが脱落することがあります。また、インプラントを支える骨量が不足している、あるいは骨の質が悪い場合、インプラントが脱落してしまうことがあります。さらに、歯ぎしりや噛み締め、食いしばりは、インプラントに過大な負荷がかかるので、マウスピースを装着するといった予防が必要です。放置しておくと、インプラントが早期に脱落する可能性が高まります。
手術後、インプラントは顎の骨と緊密に結合します。しかし、歯肉との結合は自分の歯よりも弱く、食べかすやプラークが溜まりやすくなります。歯茎のトラブルを悪化させ、インプラント周囲炎(細菌感染)が発症しないように注意しましょう。治療後のケアを怠ると、インプラント周囲炎を発症し、腫れたり膿が出たりして、インプラントが脱落しやすくなります。インプラント周囲炎を防止するには、治療前に歯周病を完治させること、手術後も口腔内ケアを怠らないことが大切です。
インプラントを長期にわたって使用するには、日々のお手入れが欠かせません。インプラント治療後も油断禁物です。まず日常的な歯ブラシを上手すること、そして定期的に歯科医院でメンテナンスすることが重要です。
⑤ インプラント手術におけるリスク
インプラント手術に関するリスクとしては、細菌の感染、多量の出血に加え、歯肉弁やインプラント周囲組織の壊死などが挙げられます。また、インプラントを埋める際のドリリングやインプラント体の埋入の際に、下歯槽神経や上顎洞を傷つけてしまうリスクもあります。下顎の中を通っている下歯槽神経を傷つけたり、切断したりした場合、術後に麻酔をしているような痺れが下顎と下唇に継続して生じます。上顎の骨は薄いことが多く、上顎洞という空洞があります。上顎洞に対するリスクとしては、インプラント埋入時に骨を突き抜けてしまう、骨と結合せずに上顎洞の中にインプラントが落ちてしまうことで、この場合は手術でインプラントを摘出する必要があります。
インプラント埋入の方向が不適切な場合、被せ物が適切な形態にすることができず、清掃性が悪くなり、インプラントの寿命が短くなってしまう可能性があります。失敗の原因としては、手術前のCT検査を十分に行っていない、術式・インプラント体(長さ・太さ・種類)の選択ミス、術者の技術量の不足が考えられます。
トラブルを回避するために
手術前の診査・診断をしっかり行っておく必要があります。歯科用CTを使用すれば、インプラント予定部位の顎の骨の立体的な形状や周囲の神経の位置情報などを確認することができますので、先に挙げたようなトラブルのリスクを最小限に抑えることが可能となります。
⑥ 早期インプラントの失敗
インプラント埋入後に骨と結合しない
インプラント治療では、手術の際に機械的にインプラントを骨に固定する初期固定を行います。その後、生物学的な固定へと移行し、インプラントと骨が組織的に直接結合する二次固定(オッセオインテグレーション)へと変化していきます。インプラントと骨の結合しない確率は1~6%ほど。適切に施術を行えば、高い確率でインプラントは骨と結合します。
通常のインプラント治療は、抜歯してからインプラントを埋入するまで1~2ヶ月程度かかりました。近年では、技術やインプラント製品が向上したことにより、抜歯した当日にインプラントを埋め入れることも可能となりました。これを「即時インプラント」と言います。マイクロモーション(咬み合わせの力がかかった時にインプラントがわずかに動くこと)を、一定の範囲内に収めることで、二次固定の早期獲得と、従来一次固定だけではかけられなかった負荷にも耐えることが可能です。これが即時インプラントの原理となります。
しかし、口腔衛生状態が非常に悪く、細菌に感染していたり、喫煙の影響で血流が悪くなっていたり、全身の状態が悪かったりする場合は、埋入されたインプラントが骨と結合しない確率が高くなります。
⑦ 長期的なインプラントのリスク
インプラント埋入後に骨と結合しない
長期で見たインプラントの失敗には大きく分けて
- インプラント周囲炎による骨や歯肉の喪失に関するもの
- インプラント自身に起こる破折などのトラブル
があります。
長期的なインプラントのリスクに関わる生物学的・機械的な要因としては、インプラント自体の設計(何本のインプラントで何本の歯を支えるか等)ミス、歯ぎしり、インプラント周囲の顎の骨の喪失、インプラントの直径が細いなどが挙げられます。これらの要因は、手術前の診査で回避することが可能です。予後の要素である歯ぎしりの有無も患者様の問診などで把握することができます。
咬み合わせの調整が不十分だと、過度の咬合力がインプラントに加わることや、歯ぎしりによる通常の咀嚼よりも強い力が加わることで、インプラント周囲の骨が溶けてしまったり、被せ物の破折・脱離を繰り返したりすることがあります。
また長期使用により、インプラント体や土台、被せ物が破折することがあります。インプラント体が破折した際は、破折部位により対応が異なりますが、一般的にインプラント体を撤去します。ただし撤去が困難なケースもありため、感染リスクを認めない場合は撤去しないこともあります
⑧ インプラント周囲炎
インプラントでも歯周病を発症
「インプラント治療をすれば、その後は虫歯にならなくてすむ」と喜ばれる患者様がいらっしゃいます。確かにインプラント体はチタンですので、天然歯のように虫歯にかかって喪失してしまうことはありません。しかしながら、インプラントと言えども、歯周病の発症リスクはなくならないことを忘れないでください。
インプラント周囲炎
インプラント周囲炎にかかった場合、インプラントを支えている顎の骨が溶けてしまい、最悪の場合インプラントが抜け落ちてしまいます。インプラントが失敗してしまう原因として、インプラント周囲炎を無視することはできません。
インプラント周囲炎を防ぐためには、お口の中の歯周病自体をきちんと治療しておくことが必要です。喫煙は歯周病のリスクファクターです。喫煙が歯周病の絶対的な要因ではありませんが、歯肉には無視できない影響が現れます。例えば、実際には口腔衛生状態が悪く、通常は歯肉が腫れて出血も起こる状況であるのに、喫煙の影響で歯肉の血流が悪くなり、出血しないことがあります。喫煙によって歯周病の自覚症状が出にくい状況が生まれるわけです。ンプラント周囲炎の予防のためには、喫煙の有無も一つの要因になってきます。
歯周病予防
インプラント治療を成功させるには、手術前の十分な診査と適切な診断・施術が前提となりますが、歯周病の事前治療と治療後の管理、正しい歯磨きなどによるセルフケア、喫煙などのリスクファクターのコントロールなどが重要になります。特にインプラント周囲炎の予防は、セルフケアが欠かせません。時々歯科医院でのメンテナンスをすることで、より質の高い予防が可能になります。
インプラント治療を成功させるために
インプラント治療の成否の判断基準
インプラント治療の成否の判断基準は以下のとおりです。
- 治療後5年間、痛みと動揺が無くインプラントが歯として機能している
- レントゲンによる診断でインプラント周囲の骨の吸収が1.5mm以内
- 歯肉に膿や出血が見られず、インプラント体にもトラブルがない
- インプラントが機能的、審美的に十分に機能している
- 痛みや違和感なく食事ができ、患者様自身も満足されている
インプラント治療の成否を分けるポイント
第一に全身疾患がないこと。インプラントは外科手術が必要な治療です。高血圧、糖尿病など生活習慣病はもちろんのこと、血液疾患やその他疾患がある場合にはかかりつけ医に確認が必要となる場合があります。喫煙の既往も予後に関係があります。また十分な骨量があることも重要な要因になります。
インプラント治療前の必須事項
骨が十分であるかどうか確認するため、治療前のCT検査は必須です。(骨量が不十分だと、骨を作る手術が必要になります)歯周病であれば、手術前に歯周病の治療を行い、また患者様にセルフケアついて助言や指導することで、インプラント周囲炎の発症リスクを大幅に低減します。インプラント治療は、歯ぎしりの有無も考慮して設計します。
長期間、歯を欠損したまま放置しておくと、咬み合わせていた反対側の歯が伸びてきてしまいます。欠損した歯肉部分と咬み合ってしまい、被せ物が入らない、あるいは入れても、すぐに被せ物が取れてしまうことがあります。このような場合、伸びてきた歯の治療も必要です。また、隣の歯が倒れてインプラントを入れるスペースがないこともあります。このような場合も同じく倒れてきた歯の治療が必要になります。
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インプラント治療の注意事項(リスク・副作用など)
- 外科手術のため、術後に痛みや腫れ、違和感を伴います
- メンテナンスを怠ったり喫煙により、お口の中に大きな悪影響を及ぼすインプラント周囲炎等にかかる可能性があります
- 糖尿病、肝硬変、心臓病等の場合、インプラント治療ができない可能性があります
- 高血圧、貧血・不整脈等の場合、インプラント治療後に治癒不全を招く可能性があります
- 自費診療(保険適用外治療)となります