インプラント治療における痛み
Dental Implant Pain
インプラント治療における痛み
インプラント治療を行うに際し、患者様が最も不安に感じていらっしゃることの一つに「痛み」があるかと思います。「骨に穴を開ける」「歯茎を切る」という話を聞くわけですから「痛み」に対する不安があるのは当然のことです。
しかしながら、治療の過程において「どのようなタイミングで、どのような痛みを感じる可能性があるのか」については漠然としていて、はっきりとはわからないことでしょう。
ここでは、治療前から治療後までの各ステージにおいて、どのような痛みを感じる可能性があるのか解説していきます。
治療段階ごとの痛みについて
インプラント治療前
抜歯しなければならない状況の歯は、抜歯する前から痛みを感じることがあります。
治療前の痛み
歯は一度抜いてしまうと元に戻せません。そのため、極力抜歯という選択肢は避けたいものです。しかし、悪くなってしまった歯は様々な原因で痛みを引き起こすことがあります。
痛みとは体が発する危険信号であり、薬を飲むことで痛みをとることは可能ですが、最終的には根本的な原因を取り除く必要があります。残念なことに重症になると抜歯が唯一の手段となってしまうことがあります。
抜歯原因に多い歯周病
ポケットと呼ばれる歯の周りの溝の深さががどんどん深くなっていき、最終的に歯がグラグラになって抜けてします。歯の周りの歯肉や歯根膜、歯槽骨に細菌が感染し、炎症が波及することで痛みが出ます。また歯茎の中に溜まった膿によって内圧が高くなり、激痛を伴うこともあります。これを辺縁性歯周炎と言います。
そして、感染が歯の根っこの中から進行する場合もあります。この場合、虫歯が原因で歯の中から細菌感染が起こり、根っこの先から歯の周りに感染が波及します。この場合も歯の周りの歯肉や歯根膜、歯槽骨に細菌が感染し、炎症が波及することで痛みが出ます。こちらは辺縁性歯周炎と比較して、根尖性歯周炎と言います。
どちらも物を咬んだりした時や軽く歯に触れたりしただけでも激痛を伴うことがあります。
抜歯の痛み
まず表面麻酔後に細い針で注射します。針を刺す瞬間にチクっとした痛みを伴うことがあります。また、下の顎の骨は非常に硬く麻酔が効きづらいので、人によっては抜歯中に痛みを訴えることもあります。その場合は麻酔を追加します。
麻酔が切れた後は、抜歯による痛みがあります。
抜歯後の穴を徹底清掃
抜歯後の穴の中の清掃は非常に重要です。清掃具合で骨の再生量が決まるので、汚れが残らないように徹底的に清掃します。
痛み止めで炎症や痛みを抑制
抜歯後、麻酔が切れてくると痛みを生じることがありますので、痛み止めの薬で炎症や痛みを抑えます。抜歯治療のために切開した傷口が塞がらず、歯槽骨がむき出しになり、激しい痛みが生じることを「ドライソケット」と言います。キレイに洗って安静にすることで痛みは引きます。抜歯方法の違いによっても、手術後の痛みの度合いが変わってきます。
抜歯からインプラント埋入に至るまでの痛み
抜歯をすると、当然その場所では咬めなくなります。そうなると残された歯で咬むことになり、歯一本当たりの負担が増します。人間の咬む力は体重と同じくらいあるため、加重負担の増した歯の歯根膜が痛むことがあります。
また、抜歯した場所をかばうことで偏った咬みグセになることがあります。その影響で顎の関節に負担がかかり、顎に痛みが出ることがあります。
このように歯を抜いた後も様々な理由で痛みが生じることがあります。抜歯をした部分はインプラントの仮歯が入るまで、しっかりとは咬めませんが、可能であれば一時的に入れ歯を入れるなどして咬めるようにします。
インプラント埋入時の痛み
原則として、しっかりと麻酔を効かせて行うため痛みを感じることはありませんが、稀に麻酔の効きにくい方が痛みを感じることがあります。
インプラント埋入は、骨内に金属を入れ込むわけですから「怖い」「痛いに違いない」と思われるのは当然のことです。具体的な処置の流れを説明いたします。
インプラント埋入処置の流れ
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- 手術前の準備として
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レントゲン写真やCTを撮影します。また、問題となるような全身疾患がないかを確認します。
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- インプラント埋入当日
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まず埋入予定部位周辺に局所麻酔を施します。埋入本数によって異なりますが、虫歯治療をするときよりも少し多めに麻酔をします。
麻酔はしみ渡っていくことで効力を発揮しますので、十分に待つことで大半の方はインプラント埋入時に痛みを感じることなく過ごすことができます。
しかしながら、生来の体質として麻酔の効きにくい方や麻酔の切れやすい方がいらっしゃいますので、そのような方は適宜麻酔を追加しながら行っていきます。
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- 歯肉を切開し、埋入部位の骨を明示
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インプラント埋入部位に専用の器具を用いて、骨内に所定の深さ・大きさの穴を開けていきます。穴を開け終えたら、インプラント体を埋入します。
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- 歯肉を縫い合わせて終了
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手術中に痛みを感じるとしたら、穴を開けるときか、埋入するときかの可能性が高いですが、麻酔を追加することで、大半は痛みを感じることなく処置を進めることができます。
静脈内鎮静法で不安、恐怖心を解消
インプラント埋入における、肉体的な痛みは局所麻酔によって除去することが可能です。しかしながら、穴を開けるときの振動や音、口を開けっぱなしにすること、手術者の会話など、精神的に恐怖を感じる要素は局所麻酔では排除することができません。
どうしても不安を拭えない患者様には、安全かつ不安なく処置を受けていただくため、静脈内鎮静法をお勧めしています。当医院では経験豊富な麻酔医が静脈内鎮静法を行うことにより、痛みのない快適な治療を受けることができます。静脈内鎮静法とは、腕に点滴を採り、そこから薬を入れて精神を鎮静させる麻酔法です。薬は一般的にマイナー・トランキライザー(睡眠薬の1種)を使用します。
薬を入れて1~2分すると非常にリラックスした気分になります。また薬の持つ健忘効果により術中の局所麻酔の痛み、ドリリング時の振動など、個人差はありますが不快な記憶がほとんど残りません。手術後10~15分経てば帰宅できます。ただし手術後、車の運転はできません。
静脈内鎮静法の流れ
- 事前に鎮静に際しての注意事項をご説明
- 当日の体調や全身状態などをお伺いし、使用薬剤などを決定
- 腕などに点滴の針を入れ、薬剤注入の準備
- 血圧計などの全身管理に必要な器具を装着
- 薬剤を入れ、徐々にうとうととリラックスした状態に
- 処置終了後はしばらく休憩をしていただき、ご帰宅
薬剤に対する反応は個人差があります。完全に眠ってしまい、処置中の記憶がまったくない方もいらっしゃれば、リラックスはしていたものの何となく記憶が残っている方もいらっしゃいます。インプラント埋入に対して強い恐怖心をお持ちの患者様は、担当医にご相談ください。
インプラント埋入後の痛み
インプラント埋入に際しては、局所麻酔が効いているため痛みはなく、静脈内鎮静法を併用された方は精神的にも平穏な状態で術後を迎えることができます。手術後に痛み止め薬を服用していただくので、麻酔が切れた後に突然激痛に襲われることはありませんが、歯肉を切ったり、骨を削ったりという処置をしておりますので、手術後はそれなりに痛みを感じてしまいます。
手術後の痛みの程度は人それぞれで、痛み止め薬をお渡ししていますが、まったく服用されない方もいらっしゃれば、不足してしまう方もいらっしゃいます。日を追うごとに痛みは徐々に弱まっていきますので、痛みが残っていても必ず収まるので心配されなくても大丈夫です。極稀に感染を起こしてしまう場合があり、弱まっていた痛みが逆に強まってくることがありますが、非常に稀なケースです。
手術後の腫れや痺れ
腫れや痺れについても人それぞれで、短時間でスムーズにインプラント埋入が済んだ方でも著しく腫れてしまうこともあれば、時間がかかったにもかかわらず、まったく腫れない方もいらっしゃいます。一般的には、歯肉切開量が広範囲、骨切削量が多い、処置時間が長いといった場合に、手術後の痛みや腫れ、痺れが出る可能性が高くなります。
2次手術の痛み
インプラントは、埋入してすぐに咬めるように機能させることは難しく、一般的には骨内に埋入した後に歯肉を縫い合わせ、インプラント体と骨がしっかりと生着するのを待ちます。二次手術とは、インプラント埋入後、生着する期間である3~6ヶ月ほど経過して行う処置です。
具体的には、インプラント体と被せ物をつなぐアバットメントと呼ばれるものを取り付ける手術のことです。インプラント体は歯肉の下にありますので、局所麻酔を施した後に歯肉を切開する必要があります。処置範囲は歯肉と骨表面のみですので、インプラント埋入に比べれば麻酔の量は少なくて済みますし、痛みを感じる可能性も低くなります。
歯肉の位置をずらす術式を採用
二次手術には、幾つか手術方法がありますが、当医院では主に歯肉の位置をずらす方法を採用しています。そのため、術後に部分的に骨が露出することがあります。露出した骨の表面は1~2週間程度で歯肉によって覆われてきますが、覆われるまでの間に痛みを感じることがあります。骨の露出範囲が大きい場合には、歯周パックにより骨露出面が剥き出しにならないようにして刺激を遮断しますが、それでも痛みを感じてしまうことがあります。
この処置も、インプラント埋入と同様に術後の痛みの感じ方は個人差が大きく、まったく痛むことのない方もいらっしゃれば、2週間近く痛みを感じてしまう方もいらっしゃいます。
なお、インプラント周りの歯肉を強固にする処置併用が必要な場合には、処置範囲が広くなります。詳しくは担当医にお尋ねください。
咬めるようになってからの痛み
上部構造をセットし、インプラントで咬めるようになってからの痛みには、次のようなものが原因として挙げられます。
- 上部構造の不適合
- アバットメント連結部の緩み
- インプラントにかかる過度な咬みしめの力
- インプラント周囲炎
上記は、ほとんどが「咬んだときに痛い」という症状として現れます。インプラントは予知性の高い治療方法であり、文献や研究デザインにもよりますが、10年の長期生存率もおおむね90%を超えています。
しかし、これらの偶発症状が起こることが考えられるため、上部構造及びアバットメントは取り外しができる状態とし、メンテナンス時にチェック・問題があれば即時対応できるようにしています。
上部構造の不適合(形態不全による周囲歯肉の圧迫等)は、セット後すぐに現れてくることが多い症状です。アバットメント連結部の緩み、及びインプラントにかかる過度の咬みしめ力は、どちらも力のアンバランスが原因になります。十分に調整してから上部構造をセットしますが、経年的に起こる患者様の咬み合わせの変化は防ぐことができません。そのため、定期的なメンテナンスへのご理解とご協力をお願いしています。
インプラント周囲炎
インプラント周囲炎とは、いわばインプラントの歯周病であり、インプラント周囲組織に細菌感染が起こり、結果として周囲歯茎の炎症やインプラントを支える骨の吸収が起こる疾患です。天然歯における歯周病と同じで、主にお口の中の清掃不足が原因で発症します。しかも、インプラントは、天然歯よりも歯周病に罹患しやすく、歯周病がコントロールできない患者様には長期的なインプラントの使用が望めません。そのため、インプラント治療前の徹底した歯周病コントロールが重要になります。
インプラント周囲炎は、初期は患者様が症状を訴えることはなく、レントゲン上で骨のわずかな吸収が認められるくらいです。進行するに従い「咬んだときに痛い」「違和感がある」といった症状を認め、最終的には埋め込んだインプラントの脱落につながります。
セルフケア及び定期的なメンテナンスの必要性
以上のように、インプラントは咬めるようになってからの痛みも存在する治療です。しかし、これら偶発症状の多くは、治療後の適切なセルフケア及び定期的なメンテナンスによって防ぐことができます。
インプラント治療は、咬めるという喜びが大きい治療法ですので、不明な点があれば何なりと当医院の医師、スタッフにご相談ください。
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インプラント治療の注意事項(リスク・副作用など)
- 外科手術のため、術後に痛みや腫れ、違和感を伴います
- メンテナンスを怠ったり喫煙により、お口の中に大きな悪影響を及ぼすインプラント周囲炎等にかかる可能性があります
- 糖尿病、肝硬変、心臓病等の場合、インプラント治療ができない可能性があります
- 高血圧、貧血・不整脈等の場合、インプラント治療後に治癒不全を招く可能性があります
- 自費診療(保険適用外治療)となります